生き物の死に様
稲垣 栄洋
ISBN978-4-7942-2406-4
草思社
定価(1,400円+税)
美しい言葉が好きです。
次の生命に繋ぐために必死に生きている生物。
人間に利用されるためだけに生まれ、死んでいく生物。
それぞれの生き様が美しい言葉で紹介されています。
死へ向かう儚さに対して、美しい言葉で綴ることは
その生物への最大の賛歌だと思います。
本を読まない(漫画は読む)知り合いから
「ただ、文字が並んでいるだけなのになぜ楽しめるのか。」
と聞かれたことがあります。
その時は、答えられませんでしたが、今も答えられません。
「この本を読んで欲しい。」が今の私の回答になると思います。
生物が生まれてから1ヶ月も経たず死んでいく。
それを運命と受けとめ、必死で子孫を残すために危険を顧みず生きていく事を
儚く美しいと、受け止めてくれるのかわかりません。
母なる川で循環していく生命
サケ
もちろんサケたちが故郷を目指すのには理由がある。サケたちは故郷の川に遡上して卵を産む。そして新しい命を宿すと、自らは死んでゆく宿命にあるのだ。
サケたちにとって、故郷への出発は、死出の旅である。
彼らはその旅の終わりを知っているのだろうか。もし、そうだとすれば、彼らは危険に満ちた死出の旅に誘うものは何なのだろう。
このブログのタイトルにも登場させていただきました
死出の旅
死での山に行くこと。
冥途へいくこと。
死ぬこと。
この言葉を知りませんでした。
サケたちの最期を敬う言葉として、最上ではないでしょうか。
こちらの本では、その後の運命を儚く語ってくれています。
もし、このような運命を知っていたら自分は川へ向かえるのだろうか。
子孫のために、迷うことなく死出の旅を始めることができるのでしょうか。
三億生命をつないできたつわもの
カゲロウ
人の命の一生のはかなさを例えて「かげろうの命」と言う。
この弱々しい虫は、成虫になって一日で死んでしまうことから、「はかなく短い生命」の象徴として、「かげろうの命」という言葉が作られた
切手やはがきなどの使い捨ての一時的な印刷物を「エフェメラ」と呼ぶが、これも「一日」といういう意味のラテン語に由来しており、「カゲロウのように刹那的な」というニュアンスを含んでいる。
実際には、カゲロウは幼虫の時に長い時間を過ごすこと。
テレビなどで大量発生した時にニュースで紹介され良いイメージが無い。
しかし、成虫としては一日どころか数時間しか生きられないのは事実であり、
それは、子孫を残すためだけに与えられた時間なのである。
太古より海底に降り注ぐプランクトンの遺骸
マリンスノー
細胞が二つに分かれたときに、死んでしまった元の個体の死体が残るわけではない。元の個体と同じ単純細胞生物が二つになるだけである。死んだ個体が残らないということは、そこに「死」はないことになる。
ひたすらコピーを繰り返して増えていくだけの、この単純な生物に、生物学的な定義での「死」はないとされている。
生物が地球に誕生したのは、三十八億年前のことである。すべての生命が単純生物であったこの時代に、生物に「死」は存在しなかった。
マリンスノーという言葉はとても美しいと思います。
確かテレビのドキュメンタリーなどで美しいBGMが流れる中マリンスノーが映し出されて
綺麗だなという感想を持ちました。
その後、マリンスノーはプランクトンの死骸であることを知りショックを受けました。
しかし、この本を読んで死に様の美しさを知った今、
マリンスノーという言葉が美しいと思った理由がそこになんだと思いました。
また、単純生物には「死」がないこと。
たまに、死なない生物などが紹介され驚いていましましたが、
生物のことをきちんと調べればわかっていたはずのこと、
無知とは「恥」でした。
草食動物も肉食動物も最後は肉に
シマウマとライオン
シマウマなどの草食動物は、一回の出産で一頭の子供を産む。しかし、ライオンは一回の出産で二〜三頭の子供を産む。たくさんの子供を産むということは、ライオンの子供の方が生き残る確率が低いということなのだ
驚きでした。
言われてみて、思い出してみれば確かにそうでした。
また、人間も貧困から抜け出すことで子供を産む数が減っていくことは
よく知られています。
ライオンが狩に失敗する映像は時々テレビで流れますが、
まさか、シマウマよりも生き残る確率が低いのは驚きでしかありません。
今までなんとなくで、こうだろうと決め付けていたり、
気にもしていなかったことを美しい言葉で教えてくれます。
それぞれの死出の旅は映画観ているようで、
琴線に触れることが多く、何度も読み返したい一冊です。
何よりも、まえがきとあとがきがなく、目次と本編のみです。
よく、あとがきで「誰々に感謝」とか書いてありますが、
その本が完成するために必要な人だったかもしれません。
中にはとりあえず、感謝しているみたい場合も
本の中で感謝すべきは、今まさに読んでいる読者だろ!と、
突っ込みを入れたくなります。
それぞれの物語の中で生き物たちの死出の旅を美しく儚く紹介することこそが
最大の賛辞だと思いました。